慶應鶏肋録

めし、フロ、慶應通信の勉強(卒論)、ついでの雑用とか

【芥川賞直木賞予想 #157-2】今村夏子『星の子』を読んでみた

今村夏子『星の子』(朝日新聞社出版)、読了。これが今回の候補作読みの初回なので、この作品を基準にしていく。

主人公・林ちひろは、幼いころから病弱で、そのことがきっかけで両親は新興宗教へと傾倒する。 長じてちひろ自身は健康になったが、両親は怪しげな宗教から抜け出さずにいる。ちひろには姉のまーちゃんがいるが、彼女はそんな両親に愛想を尽かしたのか、ひとり家を出て行ってしまい、戻ることはなかった(両親も半ば諦めている)。

両親やその宗教に対して異議申し立てをするのは、まーちゃんだけでなく、ちひろの伯父、そして両親が(宗教その他で)世話になっている落合さんの息子など。ちひろの友だちもうさんくさく両親とちひろを眺めている。彼らの主張は時に声高で激しいものだが、ちひろ自体は賛同するわけでもない。

かといって、両親にも全面的に与しているかというとそうでもない。世間からすれば、林一家は〈異常〉であるという認識は充分あるが、両親には静謐な理解を示しているし、彼女自身も〈集会〉の仲間たちとは楽しく過ごしている。

だがその静謐さは、いつまでも続かないことが〈暗に〉示される。ちひろの高校進学をきっかけに、彼女は新しいステージへと向かうことになる、はずだ。

はずだ、と云ったのは、言葉によっては明示されていないからである。しかし、彼女を取り巻く風景やら気配やら仕草やらの、なにか〈知られざるものたち〉が、彼女を導き、彼女自身もそれに抗うことはない。

「あひる」のなかでは〈なにか得体の知れないもの〉だった〈知られざるものたち〉は、静謐で体温の低い物語の芯にあって、物語を推し進める力になっている。それが、読み手を温かくしてくれる。

この作品が受賞しても構わないと思う。