立春ですね。
春は名のみの 風の寒さや
谷のうぐいす 歌は思えど
時にあらずと 声もたてず
「早春賦」の歌詞の通り、と思いきや、今朝はとても温かい。夜半に雨も降ったようですね。
インフルに罹った娘は、今朝方熱は微熱にまで下がっていました。まだ油断はできないですね。息子は今日登園許可の診断に行きます。
*
本棚を整理していたら、河合隼雄『こころの読書教室』を発見。以前、読書会でも取りあげたテキストだった。
河合隼雄について、ぼく自身は心理学に親しんでいるわけではないので、ユング派心理学者とか元文化庁長官だったとか以上のことを知っているわけではない。
ただ村上春樹と対談をしたということ(『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』新潮文庫)はインプットされていて、今回の読書会でもそのことを糸口にして、なんとか進行していったという記憶がある。
- 作者: 河合隼雄
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2014/01/29
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (13件) を見る
- 作者: 河合隼雄,村上春樹
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1998/12/25
- メディア: 文庫
- 購入: 20人 クリック: 76回
- この商品を含むブログ (187件) を見る
この本は、要するに河合隼雄の読書案内です。
私はできるだけ多くの人に本を読んでもらいたいと思っている。それも、知識のつまみ食いのようではなく、一冊の本を端から端まで読むと、単に何かを「知る」ということ以上の体験ができると思っている。
後述するが、ここには「まず読んでほしい本」として20冊、「もっと読んでみたい人のために」として20冊、計40冊の本が紹介されている。
著者曰く「読まな、損やでえ」というタイトルにしたかったらしく、そのくらい面白い本を並べているということだ。ちなみに、ぼくがこの本を読書会の課題テキストに指定したのは、テキストを読み終えたあとで、40冊のうちどれかを図書館で借りてもらえたらいいなと思ったからである。
タイトルに「こころ」とあるように、この本を手かがりにして人間の心のことを考えていく、こころとは何かという問いに答えていく体裁をとっていて、全部で4章立てになっている。
河合隼雄は心理療法や臨床心理学において、「事例研究」という方法論を提唱した。そこから進んでいって「物語」ということを自らの考えの基礎に置いた。さきの村上春樹との対談はその考えのストライクな企画だったろう。
河合俊雄*1による「まえがき」にあるように、
こころについて理論的に、体系立てて述べることもできるけれども、それでは生きた心理学にならないのではないか。個別で限られているようであるけれども、個々の事例を深めていき、そこでの物語を捉えてこそ、深みに通じ、また動きあるこころにふれることができる。
だから、本の紹介は心理学的なアプローチになっている。ちょっとした心理学概論にもなっている。自己と自我、エス、ユング派心理学・・・専門用語がちょこっと顔を見せる。もちろん丁寧な解説がなされるが、それが紹介文を長くさせる。
読んでいて、意外に難しい本だと思われるかも、というのがぼくの印象。それでもときどき挿入されるエピソードが箸休めになっているし、話し言葉がベースだから関西弁がいい抑揚になって、読むこと自体には難はない。
ただ、それで解ったかのようになるのは禁物。ときおり差し挟まれる警句が、ふと目を立ち止まらせる。
人間ていうのは、ほんとうに大事なことがわかるときは、絶対に大事なものを失わないと獲得できないのではないかなと僕は思います。
「絶対に」というフレーズが、ちょっと背筋を寒くさせる。no pain,no gain につながるかもしれないけど、なにか失うことがそのときの自分自身に歓迎されるとは限らない。だって、大事なものかもしれないから。
そして、獲得したことに即座に気づくかどうかも知れず、ただ失ったことのみの辛さや哀しさ、憾みを感じるだけかもしれない。
春は、名のみの風の寒さ・・・のフレーズそのままの光景です。
んが、春は来る。
そう信じて、前進するしかありません。
冒頭は梅の写真ですが、梅は別名「風待草」というそうです(木なのに、草とは是如何に)。
この「風」というのは「春風」のことだそうで、寒さのなか凛として咲く姿に、人は来るべき春を待ち遠しく願い、観梅の帰り道寒さに丸まった背中を少しだけ伸ばすのでしょう。
春と聞かねば 知らでありしを
聞けば急かるる 胸の思いを
河合隼雄ブックリスト
■まず読んでほしい本
- 山田太一『遠くの声を捜して』
- ドストエフスキー『二重身』
- カフカ『変身』
- フィリパ・ピアス『トムは真夜中の庭で』
- オイゲン・ヘリゲル『日本の弓術』
- 村上春樹『アフターダーク』
- 遠藤周作『スキャンダル』
- 山口昌男『道化の民俗学』
- 吉本ばなな『ハゴロモ』
- ハンス・ペーター・リヒター『あのころはフリードリヒがいた』
- ポール・ギャリコ『七つの人形の恋物語』
- ルーマー・ゴッデン『ねずみ女房』
- 夏目漱石『それから』
- シェイクスピア『ロミオとジュリエット』
- 桑原博史『とりかへばや物語全訳注』
- E・B・ホワイト『シャーロットのおくりもの』
- C・G・ユング『ユング自伝ー思い出・夢・思想』
- 大江健三郎『人生の親戚』
- ルドルフ・オットー『聖なるもの』
- 上田閑照・柳田聖山『十牛図ー自己の現象学』
■もっと読んでみたい人のために
- 桑原知子『もう一人の私』
- フローラ・リータ・シュライバー『シビルー私のなかの一六人』
- 岩宮恵子『生きにくい子どもたち』
- バーネット『秘密の花園』
- シャーロット・ゾロトウ『あたらしいぼく』
- モーリス・センダック『かいじゅうたちのいるところ』
- 吉本ばなな『アムリタ』
- エリ・ヴィーゼル『夜』
- 井筒俊彦『イスラーム哲学の原像』
- E・L・カニグズバーグ『ジョコンダ夫人の肖像』
- エマ・ユング『内なる異性ーアニムスとアニマ』
- デイヴィッド・ガーネット『狐になった夫人』
- ヘルマン・ヘッセ『荒野の狼』
- 村上春樹『ねじまき鳥クロニクル』
- 安部公房『砂の女』
- 司修『紅水仙』
- 白州正子『明恵上人』
- ノーバート・S・ヒル・ジュニア編『俺の心は大地とひとつだ』
- 中沢新一『対称性人類学』
- 茂木健一郎『脳と仮想』