慶應鶏肋録

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【刺さる読書 001】『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』をもっと早く知っていたら!

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岸見一郎/古賀史健『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』(ダイヤモンド社kindle版)、読了。ぼくのまわりではやたら話題になっているらしく、読書会も開かれているみたい。ま、誰かと語るのに取りあげやすい内容だとは思うけど。

嫌われる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教え

嫌われる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教え

ひとりの青年が、ある哲学者を訪ねてくる。
その哲学者は「世界はどこまでもシンプルであり、人は今日からでも幸せになれる」と説いていた。青年はその真意を問いただしに来たのである。

青年は、幼いころから自分に自信が持てずに、出身、学歴、さらには容姿についても強い劣等感を持っていた。そのせいか、いつも他人の視線を過剰に意識して、その反動なのか他者の幸福を心から祝福できず、いつも自己嫌悪に陥っている、というキャラクタ設定である。
一方の哲学者(心理学者ではない)は、年齢は不明だがおそらくは高齢者、若い時分に父親との長い確執があり苦しんだという過去を持つ。しかし彼はその苦しみを、ある思想を学ぶことで克服していた。
その思想こそ、アルフレッド・アドラーの心理学(アドラー心理学)であり、くだんの青年はそのアドラー心理学を論破しようと挑んできたのだった。

ルフレッド・アドラーは、オーストリア出身の精神科医、心理学者、社会理論家。欧米では、フロイトユングと並んで「心理学の三大巨匠」と称されているらしいが、日本ではまだ知名度が低いという。ぼくはせいぜい名前ていどくらいしか知らなかった。
アドラーはもともとフロイトの共同研究者だったが、やがてその一派とは訣別して、自身で「個人心理学(アドラー心理学)」を創始した。

この本では、青年と哲人(哲学者)のやりとりは対話形式ですすむが、中身は青年が論争を仕掛ける体になっている。その論争を通して、アドラー心理学の概念が語られる。
著者のひとり、岸見一郎の専門はじつは心理学ではなく哲学(プラトン哲学を中心とした西洋古代哲学)であるらしい。対話形式こそギリシア哲学の古典的表現手法ということもあり、それに倣ったのだろうが、いちから諄諄と説いていく数多の入門書と違って、なかなかに読みやすいし、最後まで行き着くことができるだろう。
ただ気をつけなければならないのは、対話という形式に落とし込むことで、(意図的にせよなんにせよ)欠落してしまう部分があるのではないかという点。

哲人は、対話のなかで、アルフレッド・アドラーがトラウマの存在を否定し、これまでの人生に何があったとしても今後の人生をどう生きるかについてはなんの影響もないと話しはじめ、「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」と断言し、アドラー心理学を「勇気の心理学」と定義する。
他者を変化させるのではなく、自分を変化させる心理学なのだという。

アドラー心理学は、勇気の心理学です。あなたが不幸なのは、過去や環境のせいではありません。ましてや能力が足りないのでもない。あなたには、ただ「勇気」が足りない。いうなれば「幸せになる勇気」が足りていないのです。

「勇気づけ」をするのがアドラー心理学の要諦。
そのために、その人の経験(過去)にとらわれることを拒否し、経験に意味を与えることで自らを決定するとする。何が所与されているか(あたえられているか)が大事ではなく、与えられたものをどう使うかを重要視する。
「勇気づけ」といいつつも、その考え方は単純に「ポエム」ではない。言われた当人にとっては激しい葛藤が生ずる可能性がある考え方もあるようだ。そのまま素直には受け入れがたい考え方もいくつか開陳されている。
曰く「他者からの承認を求めることの否定」「他者の期待など満たす必要はない」「他者の課題には介入しないが、自分の課題にも介入させない」・・・。

タイトルにもある「嫌われる勇気」というのもそのひとつで、「自由とは他者から嫌われることであ」り、じつは「自由を選ぶ勇気」に他ならないという。

自由を行使したければ、そこにはコストが伴います。そして対人関係における自由のコストとは、他者から嫌われることなのです。

アドラー心理学における「勇気づけ」のための考え方を、青年の疑問に答えるかたちで対話のなかで、さまざまに紹介していく。青年はアドラー心理学の概要に触れて、行きつ戻りつしながらも理解しはじめるのだが、そこで哲人はきっぱりとクギを刺しておく。

馬を水飲み場に連れて行くことはできるが、水を飲ませることはできない。

とどのつまりは当人の意思次第ということなのだが、このアドラー心理学、体得するにはけっこうな年月が必要らしい。これまで生きてきた年数の半分が必要になると言われているそうだ。
今あなたが20歳なら30歳、30歳なら45歳、40歳なら60歳にならないと生き方が変わらないらしい。
最後にアドラーの助言が引かれている。

誰かか始めなければならない。他の人が協力的でないとしても、それはあなたには関係ない。わたしの助言はこうだ。あなたが始めるべきだ。他の人が協力的であるかどうかなど考えることなく。