慶應鶏肋録

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【刺さる読書022】ウェルズ『タイムマシン』を読んで、120年前の想像力のたくましさに触れる

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H・G・ウェルズ『タイムマシン』(光文社古典新訳文庫)読了。

タイムマシン (光文社古典新訳文庫)

タイムマシン (光文社古典新訳文庫)

その木曜日の晩、「タイム・トラヴェラー」と呼ばれる人物の家で、聞き手(著者?)たち(聞き手もタイム・トラヴェラーも最後まで名前は明かされない)友人一同は、それぞれ時間航行の理論についての議論を楽しんでいた。
時間旅行は実現できる、というタイム・トラヴェラーの話に一同は首をかしげるが、彼らの目の前でタイムマシンの模型の実演がなされる。それでも一同は時間旅行を信じることはできなかった。

翌週の木曜日。タイム・トラヴェラーの家に集った聞き手たちだが、肝心のタイム・トラヴェラー自身がその場に姿を現さない。
訝しんでいると、一同の食事が済んだころ、彼は埃まみれ傷だらけとなって現れる。そしてタイムマシンで80万年後の世界へ旅してきたこと、またその世界での出来事を語りはじめた。

タイム・トラヴェラーが旅行した未来は80万2071年後である。
そこは緑におおわれた世界であり、小柄で華奢で純朴なイーロイ人が、その楽園で戯れ、大地の恵みを食し、穏やかに暮らしていた。タイム・トラヴェラーはその世界を探索しているうちに、タイムマシンを何者かに奪われてしまう。
やがてこの世界に住むもうひとつの種族、モーロック族と遭遇することになる。彼らは光(あるいは火)を嫌い、地底で活動し、夜になると地上に現れるのであった。

タイムトラベルをテーマとした作品はここからはじまるといっていいだろう。1895年に初出というから(フロイトの『夢判断』が1900年)、120年近くまえの小説だ。
しかしながらテーマ自体は決して古びることなく、小説に映画に後続する作品がいまでもひしめいている。このあたりのSF史については、巽孝之の解説が大変親切で一読に値する。

原文はおそらく古めかしく装飾的なのだろうが、訳文はそれをうまく逆手にとって、流麗ながら読みやすい文章になっている。序盤の展開は多少冗長に感じたものの、80万年後の世界にタイム・トラヴェラーがたどり着いてからは、わりとすらすら読めた。

少々ネタバレにはなるが、80万年後の世界から逃げ延びたタイム・トラヴェラーは、第二の時間旅行をする。それは3000万年後の未来である。
はたして、そこはいったいどんな世界なのか。
120年前の想像力を楽しんでもらえたらと思う。