慶應鶏肋録

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【刺さる読書#027】石田章洋『スルーされない技術』で、自分のコミュニケーションを振り返ってみようか

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石田章洋『スルーされない技術』(かんき出版)、読了。
ところで、何でパンダの表紙なんでしょうか(笑)?

スルーされない技術

スルーされない技術

「スルー(through)」というのは、例えば「ドライブスルー」のように「**を通り抜けて」という意味。
さいきんでは人間関係にも使われるようになり、「気にしない」「無視する」ことをいうが、すっかりと定着した感がある。

「スルーされるのが怖い症候群」

「スルーされる」というのは、要するに他者から承認を得られないということで、ネットコミュニケーションの世界だけではなく、ビジネスでもソーシャルグラフ(現実の人間関係)でも、承認欲求に飢えている人たちには怖いものとされている。
著者は、その心理を「スルーされるのが怖い症候群」と名づけた(そのまんまだろ!)。

では、なんでスルーされてしまうことが起きるのか?
著者は「伝え方の問題」だという。

スルーされる理由の90%までは、伝え方に問題があります。
スルーされてしまうのは、嫌われてるわけでも、伝えようとする情報がつまらないわけでもありません。ほとんどの場合、ただ、伝え方が悪いのです。(改行、引用者)

自分の発言やコメント、プレゼンなどが無視されたり、敬遠されたり、人が近寄ってこなかったりというのは、おそらくは自分に原因があるというのだ。
「スルーされるのが怖い症候群」を解決するには、「スルーされない人になる」ことであり、そのためには「スルーされないコミュニケーション術を身につける」ことだとしている。

著者は、30年以上第一線で現役を張っている放送作家。「世界ふしぎ発見!」「情報プレゼンター・とくダネ!」など多くの長寿番組を手がけている。
前身は落語家だったらしいが(このエピソードはあとがきでたっぷりとでてくる)、放送作家こそはテレビ局担当者、さらには視聴者にスルーされたらおまんま食い上げに直結するので、著者はスルーをいかに回避するかの工夫をずっと考え実践してきたという。

この本では、著者自身が経験や先人から学んだ「人の心をつかんで離さず、スルーされない伝え方のテクニック」をたっぷりと開陳している。

言葉の温度が低い

著者はまずスルーされる人とそうでない人の違いを総括的に羅列していくが、ぼくがハッと立ち止まったのは、このくだり。

スルーされる人に共通することは何でしょう? 
それは「言葉の温度が低い」ことです。「温度が低い」という のはテレビ業界でよく使う言葉ですが、「言葉が軽い」といい換えるとわかりやすいかもしれません。温度が低くなる最大の原因は、一度に多くのことをいおう と話を詰め込みすぎてしまうことです。
会社の会議で発言するときにも「いいたいことを1つだけ」に絞る、あれもこれもと思っていると、必然的に話が長くなってしまいます。

自分としては、サービス精神旺盛だと思いたいのだが、それは違うみたい(笑)。

”つかみ”、離さない、そしてその先

続いて、相手を「つか」んで「離さない」ための方法を、そして「また会うための」話の締めくくり方について解説し、最後には、話を「スルーされないように」伝えるためのいくつかのフレームワークを示している。

第2章の「スルーされない〝つかみ〟のルール」では、つかみのルールが8つ紹介されている。

  1. 〝リード〟から始める
  2. そこはかとない不安を煽って始める
  3. 〝訴求ポイント〟で始める
  4. 共感を得て始める
  5. プライズで始める
  6. 「サイレント」から始める
  7. 〝謎〟で始める
  8. 相手の名前を呼んで始める

そして、つかんだら「離さない」ためのテクニック。著者はこれを「引き寄せのテクニック」と呼んでいる。

  1. わかりやすくたとえて、引き寄せる
  2. イメージが広がるように伝える
  3. 描写して伝える
  4. レトリックを意識して伝える
  5. ザイガニック効果(人は完成したものより、未完成なものに興味をいだくということ)を利用する
  6. ”フック”(「ここ、なんか引っかかる!」という印象)をかけつづける

スルーしない技術ならこれだけでいいのではとぼくは思ったのだが、著者はさらに「また会いたいと思わせる話の締めくくり方」が大事という。
プライベートでもビジネスでも、
「またお目にかかりましょう」
「ぜひまたお話しを伺いたいですね」
と思ってもらうことで、コミュニケーションは完結すると著者は考える。相手との関係性を構築して、それを継承していくことが大切というわけだ。

センスではなく、技術

ここまで読んできて、放送作家というのは、もちろん最後にはセンスがモノ言うのかもしれないが、そこに到るまでにはむしろ「技術」の研鑽が重要なのではと感じた。

著者の石田さんはいう、放送作家にとってのミッションは、

  • 相手の心を一瞬でつかむ
  • つかんだら、離さない
  • 次回も(その番組を)観たいと思わせる

と。

この本に書かれていることは、彼にとっては「サバイバル術」なのである。文中の折々に言語表現から心理学、落語など、幅広く古今東西の文献に言及されていて、「スルーされない技術」の裏打ちについても勉強になる。

何を言うかではなく、どのように語るか

同じことを言っても、伝えるための技術があるのとそうでないのでは、相手の受け取り方はずっと違ってくる。
何を言うかではなく、どのように語るか、が肝腎とのことだ。

さて、ここからはおまけ。
巻中に「使える(かもしれない)例え集」が載っていたので、いくつかピックアップしちゃいます。
ぜひ「スルーされない技術」のひとつとしてご活用を(笑)。

  • 空回りしている人に → 「雪の日のノーマルタイヤかっ」
  • 夢みたいなことを語る人に → 「長澤まさみ*1からプロポーズされるくらいあり得ない」
  • 前置きが長い人に → 「AV冒頭のインタビューくらいまどろっこしいよ」
  • 必要もないのに手を挙げる人に → 「笑点かっ」
  • ポールペンで書いてこいといったのに鉛筆で書いてくる人に → 「弘法大師かっ、筆を選べ」*2
  • スルーされたときに → 「聞き流すなよ、スピードラーニングかっ」

これを読んだときに、著者の次回作のタイトルは「例え力」だと直感した次第です。

*1:なぜ彼女なのかは不明。

*2:あまり日常では見かけないシーンではありますが、なんとなくそのレア度に敬服して。