ALS(筋萎縮性側索硬化症/amyotrophic lateral sclerosis、略称)の研究支援のために、アメリカではじまった「アイス・バケツ・チャレンジ」。
日本でも、各界の著名人が次々にアタマから氷水をかぶる動画が公開されると、瞬く間にブームになった。このチャリティにはルールがある。
というもの。
ただし、氷水を頭からかぶることや寄付をすることは強制ではなく、日本ALS協会も公式サイトや報道を通じて「無理はしないよう」要請している。
ちなみに、日本ALS協会には、8/15からの5日間だけで、昨年1年分に相当する、約400万円の寄附があったという(「週刊文春」2014.9.4号より)。
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さて、そもそもALSとは何なのか。
その原因すら、いまなお謎に包まれたままだ。脊髄中の運動神経をつかさどる側索が消失してしまい、ゆえに全身のありとあらゆる筋肉が徐々に消えてゆく難病中の難病である。
発症過程では各所の筋肉がピクピクと跳ねるように動く症状が伴う。まったく動けなくなるまで、ホーキング博士(イギリスの論理物理学者)のように20年以上かけて深耕していく場合もあり、わずか2ヶ月ですべてが進行してしまう場合もある。
発症は働き盛りの40代から60代にかけてが圧倒的だ。舌や喉にある筋肉がなくなってしまうため食物を飲み下すことができなくなり、胸の筋肉や横隔膜もやられるので呼吸が不可能となる。
自力では指も動かせなくなるため、自殺すらできない状態に陥る。治療法は、まだ見つかっていない。(小長谷正明『神経内科』)
いわゆる脳死や植物状態とALSが違う点は、ALS患者はそれまでと同様に思考したり感じたりすることができることである。
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ALSは、しばしば「ルー・ゲーリック病」とも呼ばれる。
ニューヨークヤンキースの4番打者として(3番打者はベーブ・ルース)、1925年から39年まで14年間にわたって2130試合連続出場を達成した(これを破ったのが、広島カープの衣笠祥雄)。
ルー・ゲーリックの妻の手記にはこうある。
「それは私たちが日本へ旅行する年の夏、つまり一九三四年のシーズン中に起こった。
試合はデトロイトでの対タイガース戦。2回表、ルーはシングルヒットを放って一塁へ走ったが、途中で突然がくがくと崩れ折れたのである。あわや転倒かと思われたが、ルーはなんとかして、とにかく一塁ベースに手をついた。
しかしその後ルーは、もうからだを伸ばして立ち上がることができなくなった」(宮川毅訳『ゲーリックと私』)
これが本人の発病のきっかけになっともいう。しかし、ゲーリックはこの最初の転倒からじつに5年間も連続出場記録を更新しつづけたのである。
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せっかくの好機なので、ぼくの手元にある、ALS関連の本を3冊紹介しておく。
- 作者: 日垣隆
- 出版社/メーカー: 「ガッキィファイター」編集室
- 発売日: 2013/05/19
- メディア: Kindle版
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ぼくがALSを知るきっかけになった本。執筆はけっこう前からだったようだが、なかなか書籍化されず、現在は電子書籍で販売。
データは古いが、ALS患者や家族へのインタビューや手記がたくさん載っていて、ALSがいまよりもまだ知られていなかった時代の、患者さん含めた家族の思いが直截に語られている。入門書として適している。
ただし、編集作業が拙くて残念だ。掲載写真が小さかったり、文字フォントがバラバラだったり。奥付のタイトルも間違っている。
- 藤田正裕『99%ありがとう ALSにも奪えないもの』
30歳のある日、人生が狂った。突然の診断から3年、左手指と顔しか動かせなくなった広告プランナーが綴る喜怒哀楽の極致、そして希望のメッセージ。
- 作者: 藤田正裕
- 出版社/メーカー: ポプラ社
- 発売日: 2013/11/21
- メディア: 単行本
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広告業界のトップランナーのひとりとして活躍する日々が、ある日突然断たれる。しかも30歳前半という若さで。
筋肉が消失していき、手足が動かなくなり、ものが飲み込めなくなり、そして目だけでしかコミュニケーションをとれなくなる。さらにはその目すらも動かなくなる患者もいる。
それでも前を向いて闘うひとりの人間の、ポジティヴなメッセージがちりばめられている。
- 川口有美子『逝かない身体 ALS的日常を生きる』
逝かない身体―ALS的日常を生きる (シリーズ ケアをひらく)
- 作者: 川口 有美子
- 出版社/メーカー: 医学書院
- 発売日: 2009/12/01
- メディア: 単行本
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第41回大宅ノンフィクション賞受賞作。タイトルがやや紛らわしいが、ALSになった著者の母親の看病記。
患者側からではなく、介護する側からの記録である。
ある突然著者とその家族にふりかかった、身内がALSになったという現実。難病とは無縁だった人たちの、「闘病記」である。
「人生には楽しいことがいっぱいあるわよ」と綴られた母の遺書をひらいたとき、12年におよぶ介護生活を終えた著者の胸に去来するものはどんな思いなのか。
全体的に冷静さをまとうその筆遣いは、ときに行間に激しい怒りとやるせなさと行き場のない徒労感を色濃くにじませる。
でも、この人は強い人なだと、一章一章読みつなぎながら思う。
- 川口有美子さんのHP
http://homepage2.nifty.com/ajikun/
- 日本ALS協会HP