慶應鶏肋録

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【刺さる読書#56】ケイン『郵便配達は二度ベルを鳴らす』は80年前の小説なのに、「週刊新潮」の臭いがプンプン(笑)。

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ケイン『郵便配達は二度ベルを鳴らす(THE POSTMAN ALWAYS RINGS TWICE)』(光文社古典新訳文庫版)、読了。
この小説、さいきん新潮文庫からも新訳されている。何回目化の映画化があるのか、どうなのか。

郵便配達は二度ベルを鳴らす (光文社古典新訳文庫)

郵便配達は二度ベルを鳴らす (光文社古典新訳文庫)

アメリカ、カリフォルニア。職なしであちこちを転々として暮らす青年フランク・チェンバースは、ニック・パパダキスというギリシャ人が経営するガソリン・スタンド兼レストランに立ち寄る。
店主からの申し出でその店で働きはじめるが、それは店主の妻コーラの美貌に惹かれたためだった。

気の多い女コーラは、さっさとフランクを誘惑し関係を持つと、夫を殺害する計画を練る。
完全犯罪のはずだったその計画は思わぬ邪魔がはいって失敗。

懲りないフランクとコーラはふたたび殺害を企み、今度は自動車事故に見せかけ、首尾よくパパダキスを殺すことに成功する。
今度こそ完璧な計画だったがしかし、事件を担当した検事サケットはフランクとコーラを疑うや、パパダキスに保険金がかかっていたことをたてに二人を窮地に追い込む。
焦ったフランクは、サケットのライバルである敏腕弁護士カッツに依頼する。カッツはアクロバティックな方法で、二人の無罪を勝ち取るのだった。

晴れて二人だけの甘い生活がスタートしたかに見えたが、彼らのまえには予期もしなかった結末が待ち受けていた。


ストーリィはいたってシンプルだ。
男と女。
不倫の末の保険金殺人。
2時間サスペンスものならど真ん中なストーリィだが、この小説、なんと80年前のもの。1934年発表だが、1934年つったら、あーた、日本史でいえば、満州国が建国して2年目である。溥儀が皇帝になった年でっせ! 

だが一読三嘆、充分いまの時代にも通用する。
通用するのはプロット自体ということもあるが、男と女、いやいや人間通しの愛憎、裏切り、嫉妬・・・。
人間の感情同士がこすれあって生まれる、どうしようもない摩擦熱だ。

訳者は、ジェフリー・ディーヴァーなどのサスペンス、ミステリの翻訳を多く手がける池田真紀子。歯切れ良く、テンポのいい文章がつづいて、まあ飽きない。
畳みかけるように進む会話(とくに検事サケットがフランクを追い詰めていく会話のくだりは見事だし、フランクとコーラの出口のない探り合いも、焦燥感を感じさせてくれる)と、余計なものを削いだ地の文がうまく連動している。
巻末の諏訪部浩一の解説も、ちからがこもっていて一読の価値がある。

ちなみに、タイトルの『郵便配達』は、出てこない。というか、内容とは関係がない。
なんでこのタイトルをつけたのかについてはいくつかの説があるようだが、まずは本編を読んでみてからのお楽しみとしたらいい。
遅咲きの作家ならではのウイットが効いている。