例によって、ネタバレっぽい記述あり*1。
小林泰三『アリス殺し』(東京創元社)、読了*2。2014年度の「このミステリーがすごい!」4位作品。こういうランキングでは、4、5、6位に位置づけられるという中途半端さが個人的には愛おしい。
- 作者: 小林泰三
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2013/09/20
- メディア: 単行本
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お察しの通り、タイトルの「アリス」は、ルイス・キャロル「不思議の国のアリス」のアリスのことで、おなじみの登場人物たちがでてくる。彼らは、地球上に存在する、複数の登場人物たちと「夢」という場を通じてリンクしている。
つまりアリスの世界でのアリスは、地球上では、例えば山田花子として存在し、山田花子は一方の世界で自分自身がアリスであることを認識している。そして複数の人間たちが共通して、そのアリスの世界を「同じ夢を見ている」ということで共有している。地球上の登場人物たちは、共通して一緒に「アリス的世界の夢」を見ている。
この現象は、「アーヴァタール現象」(アバターと語義は共通)という言葉でいちおうは解説されるものの、彼らが共有する夢の世界と現実世界とがなぜリンクしているのか、そして夢の世界はいったいどのようなものなのか、という疑問には、大した科学的説明があるわけではない。
と、ここまでが物語の設定。
さて。
この「アリス的世界の夢」のなかで、登場人物殺し*3が発生する。すると、地球上でも(アリス的世界の登場人物たちにリンクしている)人間がつぎつぎに死んでいくという結構で、両方の世界でフーダニットが詰められていくというストーリィである。
第一印象は、奇妙な世界設定のわりには、端正なフーダニットだなということ。ファンタジーものとして読んでしまうと、ちょっと口寂しいかもしれない。
キモとしては、地球上の登場人物が夢の世界の誰にあたるのかというところなんだろうが、その手かがりを潜ませた登場人物たちの会話は、「不思議の国のアリス」を巧みになぞっているだけあって、ためにする会話の連続であえてまどろっこしく感じさせて、しかも巧妙に読み手を誤誘導していく。いや、煙に巻くといったほうが正しいかも。
とここまで書くともう書きすぎなのではあるが、最後までいくとミステリというよりホラーじゃね、というのがぼくの端的な印象で、この作者ならではだなあとニヤリとするのでした。